グランドセイコーとセイコーの歴史を考える(オールドセイコー)

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※個人での見解ですが、自分でも極端な見方かと思います。不適切な表現ありましたら修正いたしますのでご一報いただければと思います。

セイコーのイメージ

以前の私はセイコーについて、正直シチズンとの違いはあまり意識しておらず「国産の無難な時計メーカー」「グランドセイコー(以下GS)だけ何かがすごいらしい」くらいの印象でした。

そんな私も中アラフォーになり、仕事でもポジションが上がってきて、ちょっとくらい年齢や立場に見合った持ち物が欲しいなと考えるようになりました。

しかしロレックスやオメガなど、著名な高級時計が似合うほど普段の服が高級品ではないし、何よりヒョロガリ、顔薄いという見た目なのに派手な時計はなんだか浮いてしまうので敬遠していました。

じゃあなんだかすごいらしいGSなら国産だし、ブランドも押しが強すぎなくてちょうど良いんじゃないか?とこれまた勝手なイメージで探してみました。

GSには決まったデザインが無い!? その①

しかし調べてみると、同じGSでも若干デザインが違うものが多々あり、しかも手巻き、自動巻き、クオーツ、あとスプリングドライブ・・・は聞いたことあるけど何それ?

一体どうなってるんだ?
確かにGSって思い浮かべようとしても思い出せない・・・。

しかし、例えばロレックスならサブマリーナー、デイトナ、エクスプローラー等、サイズや中身のマイナーチェンジはあるようですが基本は同じ顔をしています。

じゃあ最初のGSってどうなっていて、どうなって今の形になっているのかを調べてみました。

陰の実力者ロードマーベルとクラウンとKING SIKO

初代グランドセイコー アプライドロゴ、植字、SD文字盤

最初のGSは1960年に発売。

1945年の終戦から立ち直り始めた高度経済成長のはじめ、まだまだ 「Made in JAPAN」 = 「すぐ壊れる」 の代名詞でしたが各種産業が試行錯誤と改良をしていて、セイコーもその中の一つでした。

スイスをはじめとした世界の高精度時計と戦うために作られたこの初代GSは、その1-2年前の最高級機種だった実用性重視のロードマーベル(1958)と優雅さが特徴のクラウン(1959)の良いとこ取りをして作られたセイコー初のフラッグシッップモデルで・・・

私物のロードマーベル 筆記体のSeikoかつ堀り文字が珍しい

あれ?翌年にGSと中身が同じキングセイコー(KS)が発売??

そう今でこそGSがフラッグシップですが、ほぼ中身が同じ、もしくは同レベルのKSが発売されており、ベースとなったロードマーベルとクラウンも改良しながら製造/販売は継続されており当時はフラッグシップ級の時計が乱立していました。

ちなみに当時のセイコーは諏訪精工舎(現セイコーエプソン)、亀戸の第二精工舎(現セイコーインスツル)の2つあり、諏訪でGS、亀戸でKSを、メインに生産しており競い合うようにGSとKSを改良し生産していました。

後にこの同社内での競合、別開発、採算度外視が原因で経営が傾きますが今回は省略します。

GSクロノメーター事件

さて初代GSの前後3年間を調べただけで躓きそうでしたが、改めて初代GSを見ていきます。

この初代GSは、ここ10年くらいの間に3回ほど機械を載せ替えた復刻版が発売されていますが、1つ文字盤に特に異なった特徴があります。

それが Chronometer(クロノメーター)の文字です。

クロノメーターとはなんぞや?の詳細はWikipediaを参照いただきたいのですが、ここで言うクロノメーターは簡単に言えば高精度であることを証明する規格の名称です。

「1952年にスイスとフランスによって組織されたクロノメーター作業調整国際委員会が公認機関により公認歩度証明書を交付することを決めた。」
参照:Wikipedia

つまり委員会に規格をクリアした照明がもらえたらクロノメーターを名乗れるということです。

難易度の超高いモンドセレクションみたいなモノでしょうか。

当時の日本はまだ工業製品の精度が低いものも多く、勝手にChronometerの文字を入れた粗悪品も多く出回っていました。

そんな中セイコーは、クロノメーター規格を超えるGS規格を作成し、それをクリアした初代GSを作成したので、Chronometerの文字を入れました。が、

セイコー
セイコー

GS規格はクロノメーターより条件キツイしええやろ

クロノメーター委員会
クロノメーター委員会

ちゃんと試験通さないと国際協定違反だから
勝手にChronometerの文字入れたらダメやで

セイコー
セイコー

なんでや! ぐぬぬ

※1962年にはシチズンも似たことをしている笑

だったら精度を証明したらぁ!!

クロノメーターは規格証明ではありますが、そのルーツには精度コンクール(天文台コンクール)があり、精度の順位付けがされていました。

クロノメーター規格の取得と同時に、コンクールにも1964年から参戦し、初期は153位~9位と振るわなかったものの、
1967年には GS は2位、3位を獲得。
※他にも上位をセイコーが占め過ぎて、各社に結果通知のみで全体の順位発表は行われなかった。

翌年の1968年には4位~10位がセイコーのGS、KS、ロードマーベル、クラウンをベースにした機械が独占し、実質世界一位の精度を獲得しました。

1-3位はスイスのメーカーなのに「独占」と言うと日本贔屓感がありますが、この時の1-3位は機械式でなくクォーツ時計だったため、純粋な機械式としてはセイコーが頂点を取った形でした。

それが原因か、クォーツの出現で機械式の精度競争に意味がなくなったためかはわかりませんがコンクールはこの1968年を最後に終了してしまいました。

もう一つ特筆すべきは、このコンクールは世界と戦うコンクールのため、各社は特別にオリジナルの機械を作成・出展していました。

ですのでコンクール上位を取っても販売はされませんでした。
(※むしろ販売しようとしても価格がとんでもないことになる)

もちろんセイコーも最初はオリジナルで作成していましたが、この1968年のコンクールはGS含む市販機をベースを細かく調整したものを出展していたのです。

しかもこのコンクールに出して精度証明ができた73個の時計を

セイコー
セイコー

これ市販機ベースでオーバーホールもできるし実用イケるやろ。
普通に売ったろ。

と市販してしまったのです。
ただし18万円と、当時の価格で家が買えるほど高価だったそうです笑

この時の時計は今も希少価値が高く100万円以上の値付けがされています。

GS(KS)ロゴは誇りと反骨心か

少しわかりづらいのですが、

  • コンクールは順位付け
  • クロノメーター表記は検定で通る

だけなのでコンクールで世界一の精度は証明していますが、クロノメーター表記については普通に記載できるレベルになっていました。

なのでこの頃のGS、KSはChronometer表記があったりなかったり、高度調整をしたSPECIALとかSUPERIORの文字が入ったり無かったりしていますが、実用精度としては大きな差がなく、表記上の希少価値のみでした。

つまりGSロゴやKSロゴがある時点で検定に出していなくても実質クロノメーター級の精度は出ているのです。

管理人
管理人

初代GS復刻版にChronometer表記がないのは、
委員会から注意された歴史があるからではなく、それを超えるGS規格をクリアしたからこそのロゴとしての矜持があるからだと感じます・・・
 
※個人の感想です

でも正直、Chronometer表記があった方がデザイン的にも時代背景的にも好きなので入れて復刻してほしかったんですが笑

クォーツ時計の普及

1969年 セイコーが初めて市販したクォーツ時計アストロン

前述した天文台コンクールの最終回の1-3位に出てきたクォーツ(水晶振動子)時計。
コレは時計業界の歴史を変える先進技術でしたが、スイスメーカーもコンクール用に特別に作るのみで市販化はできていませんでした。

ところがコンクールの翌年1969年にセイコーが市販化に成功。

発売当初こそ高価でしたが、クォーツ時計は

  • 製造コストが激安
  • 高度な製造技術が不要
  • 精度が良すぎて機械式は置いてけぼりレベル

と安い、うまい、早い牛丼ばりのメリットしかありませんでした。

そして特許の公開と同時に、上記メリットから安くて正確なクォーツが、さらに生産コストの安いアジアをはじめ世界中で作られることになり低価格化が進みました。

当然機械式時計業界は大打撃を受け

  • 世界最古の時計ブランド ブランパン → 事業休止
  • IWC → 倒産寸前
  • ゼニス → 機械式時計部門を売却。
  • ランゲ&ゾーネ → 事業休止

と、スイスの時計業界は壊滅的打撃です。
これが世にいうクォーツショックです。

時計業界にとってはまさにシンギュラリティが起きた形です。

その後のセイコー

スイスメーカー好きにとってはセイコーがとんでもない事をした!セイコー最低!という見方もできますが、その影響でセイコーもしっかり傾きます笑

1960年に初代GS を発売してから改良を続け10年足らずで世界一の精度を出したのに、1971年には自らの手で機械式時計の生産をストップすることになりました。

そしてクォーツのみを作り続け、同時にGSが作られない空白の約20年間弱ができます。

その後1988年に新しいクォーツムーブメントを搭載したGSを発売しましたが、機械式GSに至っては1998年まで作られることはありませんでした。

さらに2004年にセイコー唯一の機構スプリングドライブ(クォーツと自動巻きの良い所取り)の発売によって、クォーツ級の精度の機械式という、精度としては他と比較にならないレベルに達することとなりました。

※近年シチズンが年に1秒しかズレないクォーツを発売するなどしていますが、機械式ではありません。

クォーツショックの是非

少し戻って、クォーツショックにより業界が大打撃を受けた事について

特許を公開せずに独自技術として高級品として売っても良かったのでは?

という意見もあるかと思います。

それについては2点フォローしたいことがあります。

①時計は高級品だった

当時は安い時計というものは存在せず、時計=高級品だったためそもそも一般に普及しているものではなかったのです。

そのため安く時計が作れるということは、時計を一般に普及させる機会があったということです。

今も町に残る古い時計屋さんは「時計・貴金属」とアクセサリーも一緒に売っているのはそのためです。

②特許独占のリスク

特許を公開する事は、業界全体で作ることができるようになる≒普及 につながる。つまり1つ目の一般への普及にもつながるわけですが、逆に、BULOVA社の例を参考に見てみましょう。

BULOVA社は、セイコーが初代GSを発売した1960年に音叉時計というクォーツに肉薄する精度の技術を早々に開発、販売していたのですが特許は独占したままでした。

そのためNASAのスペースシャトルの時計に採用されるなど輝かしい実績があるにも関わらず、一般に普及することなく1969年以降のクォーツショックの煽りを受け消えていきました。

つまり、セイコーがクォーツショックを起こさずとも、いずれ他のメーカーが量産化に成功するか、独占して普及しないリスクを考えると、否定しきれない背景は十分だったと考えます。

結局クォーツじゃないにしても、電波時計やスマートウォッチなど、いずれは技術革新によるシンギュラリティが起こる可能性は高く、クォーツショックのような事件は必然だったのだと思います。

それによって潰れてしまったメーカーも多々ありましたが、現在では機械式時計は芸術品、クォーツは実用品としての棲み分けができているので、電波時計ができてもスマートウォッチができても、同じステージで比較するものではないため大打撃というほどの事件にはなっていません。

管理人
管理人

・1971年にはニクソンショック、
・1973年にはオイルショックと、
この頃の世界経済はクォーツ以外にも色々激動だったのも重なって倒産した企業も多かったんじゃないかなぁと、フォロー。

GSには決まったデザインが無い!? その②

と、長々と歴史を振り返ったところでデザインについてもう一度確認をしてみます。

GSも初代のシンプルなケースから始まり、座布団のようなクッションケース、裏蓋が一体化したワンピースケース、オメガのジェラルド・ジェンタデザインをオマージュしたようなCラインケースなど様々ですが、機械式の終わり頃に一つのデザインができあがりました。

44 グランドセイコー(1967)

それが1967年の44GSです。
めちゃくちゃ普通な感じなのですが、そもそもGSのコンセプトは「最高の普通」なんです。

その普通には普通に時間がわかる精度だったり、視認性の高いダイヤルなどありますが、大枠のデザインとしては

ベゼルと外周が平面でなく二次曲線であったり

二次曲線による装着感の向上や薄く見える工夫のされたデザインだったり、一見地味な形ですがセイコー初の大卒デザイナーの田中太郎氏のデザインが盛り込まれており、現在も生きています。

他にもケースと一体のラグやザラツ研磨や切れそうなエッジなど高度な職人技術が多々ありますが今回は省略します。

つまりデザインがイメージできないのは、むしろコンセプトに沿った結果なのかもしれません。

たしかに現在、GSの中でもベゼルデザインが違うものや、ダイバーズ、初期復刻など様々ですが、GS規格を満たしたものは基本すべてGSで、上記のセイコースタイルのものが最もGSらしいGSというだけなのでしょう。

トップランナーとしてのSEIKOと、修理問題

近年になってプラチナや金など貴金属を豪華に使ったプレミアムモデルなどを発売し、ラグジュアリーなブランディングもし始めていますが、もともとは普通に時間がわかる時計を作り始めたところから始まって、常に最高の時計を作り続けてきた意識が感じ取れます。

しかし、国産メーカーと言えど「一生モノ」と言えるかは疑問が残ります。

機械式時計は数年おきにオーバーホール(注油や消耗品の交換などのメンテナンス)が必要なのですが、実はSEIKOは生涯保障はしていません。およそ30年ほどで修理対象外となってしまいます。

では現存する30年オーバーのセイコーユーザーはどうしているかと言うと、昔からある時計店で対応してくれているのみです。

しかも当然メーカーからの部品供給もないため、各時計店で抱える在庫に頼るか、ユーザーもドナーと称して同一部品のある時計をストックしておき、修理時にドナーを一緒に使ってもらうなどしています。

世界の有名メーカーでも、修理可能期間が設定されているところがありますので注意しましょう。

管理人
管理人

特に海外製品はオーバーホール代もバカにならないので、どこかのタイミングで買い替えるのもアリだとは思います。

まとめ

といった歴史から、わたし管理人のメガネも1つの GS を手に入れるに至りました。

正直調べている途中から現行よりもアンティークに惹かれていましたが、実際に購入した GS 関してはコチラの記事を参照いただければと思います。

GS と言えどアンティーク品は現行品と比べてあまり高価ではありませんが、「ブランドを買う」のであればその歴史を買うつもりの方が満足度が高いです。

また祖父や父からもらったものなどは売っても小遣い程度にしかならないでしょうから、その時代の背景などを知って使ってみるのをお勧めします。

壊れない、ズレない時計が欲しいなら電波ソーラーで十分でしょう。

ネットに転がっていた情報の寄せ集めですが、誰かの参考になれば幸いです。

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